10号・紅芯銀冠

花火の特徴としては、非常に大きな円(実際は球)を一瞬にして大空に描ける事、そして再現性の無い事です。たとえば花火を映画で再現しようとすると巨大なスクリーンが必要になる訳で不可能です。試しにビデオカメラで花火の打ち上がるのを写して、家で見てみましょう。きっとガッカリします。写ってはいますが、迫力がなく実際とは比べものになりません。花火を再現できるのは花火しか無いのです。

そこで、どんな風に花火を見れば良いか?もちろん花火大会の会場で見るのですが、決まり事はありません。ただ、花火師はいつでも良い花火を求めて研究している訳で、その苦労を少しでも皆さんに分かってもらえれば、花火師も嬉しいですし皆さんの花火を見る目が変わってくると思います。このページでは、花火師がどの様な花火を求めて製作しているか。とか花火の基本的な事を説明する事によって、皆様にワンランク上の花火の見方をして頂ければと思います。




花火業界では、花火を評価するのに使われる専門用語があり、皆様にその用語を理解して頂ければ、花火の見方、楽しみ方が変わってくるのではないでしょうか。代表的な用語を幾つかあげてみましょう。



花火玉が筒から打ち出されて、最上点に達し、落下しはじめる境目を「座り」といいます。この時点での花火の開花が理想とされています。「この玉は座りが良い」とか、使われます。この「座り」が悪い場合は、花火玉が開花した時に花火玉は上昇途中か、もしくは下降途中に位置する事になります。その為に開花後の花火の形は正確な円を描く事ができません。打上火薬量、打上筒と花火玉の隙間、導火線の長さなどの微妙なバランスが要求されます。




打ち上げられた花火玉が開花し、中の星が飛び出し描かれる円を「盆」といいます。四方八方からみても真円に見え、大きく均整がとれたものが良いとされています。あまり大きすぎて星の密度がまばらになったり、盆が小さくて、星の密度が高くなり過ぎるものは良くありません。「この玉は盆が大きくて良い。」とか「盆が小さいからあまり良くない」とか使われます。盆を大きくする技術はかなり難しいもので、花火師の間にもその差があります。一般的に中国製品や諸外国等の花火玉は、日本のものに比較して小さいようです。球型の花火は元来日本で発明されたものですが、その優秀さ、美しさで諸外国の他形状の花火よりもすぐれており、徐々に諸外国も球形の玉を作る様になっています。諸外国で簡単にできない位ですから、かなり高度な技術を必要とします。「盆」を大きく、美しくするには花火玉の総合的なバランスが不可欠です。玉を爆発させる割薬、星の精度、玉貼り(花火玉の仕上げ工程)の技術などがお互いに関係しあいバランスを維持している訳です。




花火が開花し、中の星が燃え尽きた状態を「消え口」といいます。約200個から300個の星が同時に着火し、 同時に消え、残り火を出さないものが良いとされています。「もっと消え口を良くしないといけない」とか「この玉は消え口がよい」 等のように使われます。
33)7号紅芯青緑牡丹(1042KB)



上記の様な花火を花火師は求めて日々努力している訳で、簡単に言いますと「花火はドカンとはねて、大きく均整のとれた丸を描き、かつその花びら は花全体にまんべんなく行き渡り、全ての星が一瞬に咲き一瞬に同時に消えるものが良い」ということでしょうか。もちろん、錦冠(花火大会の最後を かざる金色の消えるまでの時間の長い物)みたいな余韻を残す花火の種類もありますが、やっぱり日本の花火の代表はパッとさいてパッと散るもの です。1発づつ鑑賞する場合でも、連続打上で鑑賞する場合でもこの辺を押さえた花火は一味違います。



花火玉にはそれぞれ名前がつけられていて、その名前を見ただけでその玉の現象が解るようになっています。これを「玉名」(ぎょくめい)と言っています。基本的な玉名をあげて、それぞれ説明してみましょう。



花火玉が開花したあと、星が中心より光の尾(金色っぽい)を引きながら開き、文字通り菊の花びらの様な花火です。尾を引く所から「引き」とも言われます。たとえば光の尾を引き、そのあと青色に変化すれば「菊先青」(引先青)、光の尾を引き、そのあとで紅に変化すれば「菊先紅」となります。
13)菊先(1203KB)



菊とは異なり、光の尾をひかず最初から色の炎を出して開く花火を「牡丹」といいます。たとえば、花火の開花した所から緑色の光を出して、最後まで緑色だけで終わってしまえば、「緑牡丹」が玉名になります。青から紅に変わって消えるものは「青紅牡丹」となる訳です。
10)牡丹(1022KB)



花火玉が開花し、花の中に芯(同心で径の異なる円が1つ入る)が浮き出れば、玉名の中に芯という言葉が入ります。たとえば、「紅芯青牡丹」という玉は、開花した後青色の尾を引かない花が開き、中心に紅の芯が浮き出ます。芯が1つ入るのが「芯入り」、2つ入るのが「八重芯入り」、3つ入るのが「三重芯入り」といいます。 八重芯の場合の玉名は「八重芯菊先紅銀乱」とかになり、三重芯の場合は「三重芯錦冠菊」とかで、芯の色は表しません。
3)尺玉・芯入変化菊、八重芯変化菊(1167KB)

「昇り小花付青紅芯紫銀牡丹」という玉名があったとしましょう。この玉名は3つのブロックに分解することができます。「昇り小花付」、「青紅芯」、「紫銀牡丹」です。 「昇り小花付」は、花火玉が筒から発射され、上空で開花するまでの間に、玉が昇りながら小さな花火(小花・こはな)が幾つか咲くということです。 その後、花火が開花して「青紅芯」となる訳ですが、これは青から紅に色が変化する芯があることを表しています。最後の「紫銀牡丹」は、一番外側の円は紫から 銀に変化する花火である。ということになります。 「昇り小花付」の所は、「昇り曲導付」などとも表され、玉の発射から開花までの間に小花や銀竜、分砲、雷などがついている場合を総称して使われます。

「どーして花火に芯が2つ入るのが「八重芯入り」で、3つ入るのが「三重芯入り」というのかな?」と思うでしょう。これは、芯が2つ入った花火を見た人の驚きから、二重芯入りでなくて、「八重芯入り」になったそうです。その後、3つの芯が入るものができた訳です。芯を沢山入れれば、それだけ美しい花火になるのか?というと、そんな事も無いようです。バランスの問題や、玉の中のスペースの問題などでやっぱり「八重芯」が一番という人もいます。ただ、芯を沢山入れる事は花火玉の構造が複雑になり、手間も大変ですし技術も高いものを要求されます。花火玉の大きさについても同様です。大き過ぎても、先に説明した「花火を評価する用語」をクリアーにしないと、やはり良い花火とは言えないのです。ですから、現在のところ「日本の花火の王様」は「10号八重芯入り」という事かもしれません。
2)尺玉・四重芯変化菊(761KB)




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